全力疾走するヤツは一生する
村上 (笑)尾崎くん、僕の作品は何を読んでくれたんですか。
尾崎 『コインロッカー・ベイビーズ』『トパーズ』『限りなく透明に近いブルー』『愛と幻想のファシズム』『テニスボーイの憂鬱』。
そして、『69』。アレを僕は、拘置所の中で読んだんですよ(笑)
村上 かっこいいなー(笑)。
尾崎 そこで、「造反有理」っていう言葉をおぼえましたね。で、「造反有理、造反有理」ってそればっかり考えてました(笑)。
差し入れてもらったんですけど、僕がいた一ヶ月の間に、中にいたヤツみんなが回し読みして、
「おー、『69』すごくいいよー」って(笑)。
村上 (爆笑)
尾崎 ま、だいたいスリと覚醒剤と強盗と、そんなヤツらばっかりでしたけど、みんなに支持を受ける村上龍、みたいな。
村上 いい話だねー、ジャン・ジュネみたいじゃない。(笑)
尾崎 読んだ本は全部タイプが違うからなんとも言えないんですけど、『コインロッカー・・・・・・』は
『17歳の地図』っていうシングルの歌入れの前の日に渡されて徹夜で読んじゃったもんだから、
声がガラガラで非常に困った状況になっちゃったんですよ。
村上 『コインロッカー・・・・・・』はくるからね、カクーンと。
尾崎 あの中に「太陽の破片」っていう言葉が使われてるって聞いたんですけど。
村上 使ったかもしれない、よく覚えてないけど。
尾崎 僕、拘置所に入ってから「太陽の破片」って考えたんですよ。
村上 けっこういろいろ、いい言葉が出てきますね(笑)。
尾崎 (笑)いろんなところでいろんなことを考えてるんですよ。そこでなにかつながるところがあるのかなあ、と。
村上さんの安否を気づかっているというか。(笑)
村上 尾崎くんは最近なにをやっているの。
尾崎 アルバムの制作です。僕の頭の中では80パーセントくらいできてます。わりと新しいタイプのメッセージソング
みたいなものが出てきてるような気がします。自分でも気づかないところで変わっていったのかな、という感じはしますね。
村上 いろんなことがあってさ、中断してたわけでしょ。その前の尾崎豊っていうのは、
ハタで見てても全力疾走してるイメージがあったんだけど、今度再開するときにはランナーに例えるとバーッと走り出すのかさ、
それとも徐々にウォームアップしてやるのかどっちなのかなーと思って。顔見てるとバーッと、いきそうな気がするけどね(笑)。
尾崎 そういう意味ではバーッと走ってくっていうか。
村上 絶対バーッと走った方がいいよ。
尾崎 なんていうか、多分僕はデビューした当時から潜在意識の中に、
ある種の大人になるまでの時期にひとつの物語を完結しようっていう意志があったと思うんですよね。
で、それを理解してくれるディレクターといちばん最初に、しかも何年か一緒に仕事ができたということで、それは完結したと思うんです。
そして今、次に走りだす地点に来てるなって。今までずっと開かない扉ばっかりだったのが、
ようやく最近開き始めたみたいな気がしてて、ある意味で人生がうまくいき始めるときの恍惚感みたいなものを時々感じるんです。
これまでの創作意欲が無駄にはならなかったていうか。
村上 いや、でもね、
中断のあるなしにかかわらず、全力疾走みたいな表現をするヤツはね、一生するのよ。できなくなったらおしまいなんだよ、
オレもそう思ってるけどさ。俺なんか『静かなるドン』みたいなの、死んでも書けないもん。
『コインロッカー・・・・・・』みたいなのって要するにスピード感でしょ。快感だって思われてる神経のポイントをさ、
ピッ、ピッってやっていちばん中枢にスパッといくような感じだから。
そういう表現手段を選んだ人は、もう一生それでいくしかないと思うんだよ。だってモラリティないもん(笑)。
尾崎 『コインロッカー・・・・・・』も最後は破壊しに町へ繰り出すっていう感じでしたね。
村上 そうそう。あそこが書きたくて書き始めたようなもんだから。 ずーっと我慢してて。
でも、そういうスピード感みたいなものって、日本じゃ忌み嫌われるの。
もっとじわじわっとみんなを納得させてね、感動させるものが主流なの。
で、オレはそういうのが嫌いなんだよ、吐き気がするくらい。渋滞しているものとか沈滞しているものとか、恐怖なんだよ。
尾崎 タクシーとか電車でも?
村上 うん。で、何故かっていうと、待つのが嫌いだから。待つと想像するんだよ、いろんなことをね。でね、ロクな想像しないんだよ。
だから、想像しないですむことって好きなの。景色が流れるとか、きれいな女の人が前にいるとか、ギンギンに効いてるとか(笑)。
何かを想像しなきゃいけない状態ってその人間にとってバッドな状態なんだよね。想像するから人間なんだけど。
で、想像と空想は違うんだよ。今の日本のSFとかが全部クズなのはさ、全部時代小説に置き換えてもいいからで、
何も想像してないからなんだよ。想像っていうのはさ、もっと違うなにかがあるはずだっていうものだから。
そのためにはリミットのボーダーまでいかないと見えてこないの。
ボーダーまでいかないと向こうも発砲してこないしさ、違う景色も見えないもん。
尾崎 なるほどー。僕も待つことはイヤだし、待ってる人を見てると何でもっと時間を有効に利用できないんだろって思うんだけど、
そういうことができる人たちっているんだな、と思うと、わかんないから逆に興味をそそられるんですよね。
村上 僕ね、ふたつあると思う。待てる人には。ひとつには東ヨーロッパ的に、待たないと食えない人。もうひとつはアメリカ的に待つ人。
評判のいい映画を観るためにみんなと一緒に待ってるっていう共同体意識だと思うんだよね。
オレって共同体意識ないからさ。むしろ敵対してるから。
尾崎 うーん、石を投げられつつも? でもそこまではいかないですよね。
村上 いや、ホントだよ。石投げられたもん、いっぱい。
尾崎 そしてここまで・・・・・・(笑)
村上 日本人が待つことやめたら、あっという間に変わっちゃうよ。
尾崎 うーん、そうですね。でも何か待つことのできる少年や少女達がいるんだと思うとねー。
そういう中で僕がひとりだけ暴発して空転してる時期が非常につらかったりとか、
逆にそれを理解しようとすればするほ難度が高まっていく状況が現実としてあったんですよね。
その事実も僕は、きちんと次のアルバムで伝えてあげたいもののひとつなんです。
村上 みんな努力してないし、管理されることを喜んでいるよね。
尾崎 ある意味で管理されることを自意識の中で意識しながら反発することに喜んでいる若者が多いってことですか。
村上 若いヤツらはエネルギーがあるから反発するんだけどノウハウがないからさ。それに管理したりされたりっていうのは、
いちばん簡単なんだよね。ある契約があってさ、お前はこうしなければいけない、オレはこうするって決めるのが。
状況別に対応の仕方を教え込むのがいちばん難しいんだよ。
尾崎 そういった意味では、本質的なものを見抜かせる大人の努力っていうか・・・・・・。
僕はオヤジがいろんなことを教えてくれたってことを考えると、誰かに何かを言う時にはそういったことを
考慮しなくちゃいけないなっていう気はしますね。もっと自我を確立させる美しいものを持って欲しいという願いが僕の中にあって、
で、この特集の中のタイトルにも”祈り”っていうのが入っているんです。
誰しも純粋なものを考えれば考えるほど、どんどん頽廃的になってくというか、巻き込まれていくような気がする。