心の根底にあるもの
尾崎 イヤイヤイヤ(となだめつつ灰皿を取り上げて)、小説読んだけど、すごくうまいっていうか、
持っていき方が由貴ちゃんらしいなって感じがしたね。でも始まりが唐突だったけどね「ため息」(月カド10月号に掲載)は。
斉藤 ああ、「気がつくと音が自分の中から逃げていた」とか、そういうやつでしょ。
尾崎 あれを読んだ時に、ものすごく自分の内面的なものに興味を持っているんだなっていうことを感じたな。
斉藤 内面的な興味、って?
尾崎 自分の精神構造みたいなもの。そういうものに常に触ってみることで、なにかしたんじゃないかって。
だから小説の中の例えに、「蜘蛛の糸」だとかさ、あったりするんじゃない?そういう気がしたな。
斉藤 どうして、そんなに一生懸命ちゃんと読んでくれてるんですか。よく読んでくれてますね、感激しちゃう。
でも、私、私の小説には限界があるだろうなと思う。一冊書いたらおしまいだと思う。
尾崎 そんなことないんじゃない。
斉藤 ううん、だって私、小説の小道具になるようなこと、なにも知らないんです。
尾崎 自分の意識の流れの中だけの小説書けばいいじゃない。
斉藤 そうすると、こもっちゃうでしょ。尾崎さんはお酒やグラスの種類とか、ちゃんと知ってるでしょ。
だけど、そんなの、調べるわけには行かないじゃない。
尾崎 まあそういうのがなんなのかっていうのは、自然に知ってるよね。
でもそんなの、表現するっていうことから言えばつまんない無いことだよ。
斉藤 よく遊んでたから?
尾崎 遊ぶことの中から得ることが多かったていうのは確かにあるけど・・・・・・。
今度のアルバムの中の「誕生」っていう歌は、誕生して、それからどうなるのかっていうのがテーマでね。
生まれてから今までの自分を振り返ってみるといろんなことがあるわけじゃない。
歯医者が嫌いで歯医者の前でずーっと泣いてた自分、とか。懐古的だけどもそういった美しさと、
今の現状の自分がどうつながっているのかなっていうのが、すごく大きな問題提起になっているんだ。
そういう感じで作ったんだけど。
斉藤 すごく楽しみだな、その「誕生」って歌が。
尾崎 由貴ちゃんが一番怖いなって思うのはどんなことなの?
斉藤 一番怖いのはね、終わりがないこと。この世の人生はこれで終わるけど、そのあと輪廻して、
そして、自分の意識がこのまま残っていったら、すごく怖いだろうな、と思う。よーく考えてみるといいですよ、ホントに怖いから。
終わりっていうのはある意味で、人間に与えられた人生で最大のプレゼントだと思う。
尾崎 死ぬことも?
斉藤 もちろん。ホントにホントに終わりがあるからこそ、人間は幸せなんだと思う。私はそういうふうに考えます。
尾崎 どういうことなんだろう、わからないや。それに対応していく自信がないってことなのかな。
斉藤 そうなったら私、どっかでヘンになっちゃうと思う。
尾崎 今でも変だけどね、イヤイヤイヤ。
斉藤 (気にせずに)尾崎さんは?
尾崎 うーん、自分を見失ってしまったときにね、仕事もうまくいかなくなって、いろんな事に手を出して捕まっちゃったりとかして、
時には自殺したいって考えたりしてね。あれは辛かったなー。作品を書きたいっていう、その意欲だけが僕を支えてたんだよね。
あの時、こういう世界にどっぷり漬かってしまって、戻って来れなかったりするとすごく不幸だ、と自分では感じてたのね。
だから、もしもう一度、いつの間にかああいう世界に戻されたら怖いだろうし、そういう辛い気持ちっていうのは、
出来れば僕の体験から、そういうものには触れないほうがいいよってみんなに話してあげられたらいいな、と思うけど。
斉藤 (ちょっと考えこんで)じゃあ、一番幸せを感じたことって?歌ってプッツンきちゃってるとき?(笑)
尾崎 それもあるけど(笑)。一番幸せだったっていうか、びっくりしたことがあったのね。昔、僕、新聞配達してたのよ。
朝三時くらいに起きて自転車に新聞積んで百軒くらい配るわけ、雨の日も、嵐の日も。ある日いつものように新聞配達してたら、
ミイミイって声が聞こえて、なんだろうって思って見たら子猫がボロッて出てきたのね。その次に親猫が出てきて、
そしたら今度は十何匹の子猫が出てきたのよ、生まれたての。ちょうど犬除けにもってた食パンを少しあげたら子猫が食べるわけ。
きっと親猫も子供を産んだばかりだから腹減ってるだろうなーと思って親猫の前にパンを出すんだけど、
何回やっても子猫の方にそれをやるんだよね。親の愛とかそういった物を感じさせる物だったな(しみじみ)。由貴ちゃんは?
斉藤 月並みだけど、『から騒ぎ』の千秋楽でね、セリで上がっていたら共演者の人がみんな船のスローモーションやりながら
こっちを見てたの。その時、みんなとてもいい顔してて、すっごい震えているような幸せだった。
あと、演出の野田秀樹さんが出てきて一緒に挨拶したとき。
悲しかったけど、悲しみが最高潮に達すると、すごく幸せだったりする。うまく言えないけど。
尾崎 ふうん。でも、ホントにいちばんうれしかったのは、僕に会えたことでしょ?
斉藤 え、そう、そうそのとおりです。(笑)
(了)