言葉で説明できないことそれこそ創造物だ
坂本 尾崎君の新しいアルバム『誕生』のなかに「銃声の証明」というテロリストの曲があったじゃない?
テロリストって国境もルールも関係なでしょう。だからあの曲がとても興味深かったんだけど、
「Identification」っていうあの言葉はすぐに出てきたの?
尾崎 あの曲は金賢姫のことを歌おうとした歌なんですよ。僕が留置所に入っていたときに、
十六歳で散弾銃を持たされて他のヤクザの組に殴り込みに行ったっていう人がいて。その人がその話を自慢げにしたときに、
この人が他の組に殴り込みに行った理由に、政治的な意味合いとか何もないんだってことがよくわかったんです。
あんまり教育されていない人たちの方がテロ行為に走りやすいんじゃないか、とか。
坂本 そりゃあ、そうだよ。学問っていうのはルールで、ルールっていうのは抑制だから。
で、いい、と思ったの?なんでひかれたの?美しいことだ、と思ったわけ?(少し、たたみかけるように)
尾崎 美しいっていうか・・・・・・。うーんとね、露骨な言い方をしてしまえば、
無知さゆえの純粋さみたいなものがその行為のなかにあったような気がする。それを強烈に感じさせたのが金賢姫だったんですよ。
坂本 彼女にものすごくひかれたわけ?
尾崎 猿ぐつわをはめられて飛行機から降ろされてくる場面を観たときに・・・・・・。
坂本 ゾクゾクした?
尾崎 ゾクゾク、しましたよね(自分に確認するように)。
坂本 僕もした。
尾崎 あー(何となく納得して)。
坂本 よど号の時もしたけど(笑)日本赤軍っていうのがいてさ、飛行機をハイジャックして北朝鮮に飛んだわけ。
そのこと自体はどうでもいいんだけど、ヴィジュアル的にドキドキしたね。みんな、スポーツ刈りっていうか、
ヤクザみたいな顔してさ、ヤクザが持つヤッパっていう鍔のない短い刀みたいなものを持ってさ、
「俺たちは明日のジョ−である」って言って北朝鮮に行ったんだよ。完全にもう殴り込みの感じだよね(軽く興奮している感じで)。
何でドキドキしたんだろうね。やっぱり僕達が属している社会的なルールを簡単に越境してしまう人間が
いるっていうことに、なんだろうね。で、例えばイスラエルとかヨルダンとかパレスチナゲリラとか、十代になる前の少年達が、
大勢テロリストになるための訓練を受けてる。しかも日本もちょっと前までそうだったしね。侍なんてそうじゃない。十二、三歳で元服する
前から人殺しのやり方である剣道とか習ってさ、で、それがいいとされていたわけでしょ。別の世界のことではないよね。
(と一気に言い終えてひと息ついて)。そう、あの曲は「あしたのジョー」っぽくて、グッと来ましたね。
尾崎 ありがとうございます。
坂本 テロリストのように生きたいっていう欲望が、尾崎君のなかにあるのかなって思った。
尾崎 そう思っているわけではないんですけど、以前、村上龍さんと対談したときに、
「尾崎君みたいな人は、人をいつ殺してもおかしくない」というようなことを言われましたね。
坂本 僕もあの曲を聞いてすぐに思ったのは『コインロッカー・ベイビーズ』。
尾崎 そうなんですかー。僕はあの曲を作った時点で人生観が新たに生まれたようなところがあって。スクランブル交差点で車を止めて、
人が横断歩道を渡っているのを観ているときに、ここで今、自分がアクセルをふかして走っていけば何十人という人が死ぬだろう、
僕は人殺しにもなれるし、こいつらを助けてやる人間にもなれるんだと思ったんです。そういうに二者選択を感じて、
そこに人間性の極みみたいなものがあるかもしれないなって思ったりしているんです。
で、そういったものをどんどん掘り下げていったところで、人間のあるがままの姿を深く知れたら、
という気持ちがすごく出てきたんです。それは精神的な要素だったりするんですよね。
例えば、一つの言葉は時間の流れのなかでその意味合いを変えてしまうこともありうるわけですよね。
そういう人間のあるがままの姿の状態で、あるいは日常生活のなかでなかなか表現されないようなことを、
今回のアルバムのテーマにしたかったというのもあるんです。
「なにを言っているのか、難しくてわからない」っていうような反応も無きにしはあらずだって言われてるんですが・・・・・・。
坂本 言葉で音楽が説明できるくらいだったら、音楽なんてやる必要ないし、つまんない音楽だよ、それは。
分析したって百パーセント分析できないものが創造物なんだしさ。
尾崎 それは、進化みたいなものがこれからどういう歩みを踏んでいくかわからない、みたいな部分だと思うんですが。
坂本 進化もそうだし、生物だって、地球自体だって宇宙だってそうだよ。僕らがどうしてこういうことができるのか、
僕ら自信にもよくわからないでしょ。たまたま意識っていうものがあるから、
意識で自分が動いていると思うけどさ、
自分が意識していない自分のからだのシステムっていうのがあって、
それが日常的に行われているから立つこともしゃべることもできるけど・・・・・・。
意識なんて、全く制御していないのね、自分のこと。そう思わない?
尾崎 思います。一つの生命の謎ですよね。
母体の中にいるときの胎児は十億年の進化をいっぺんに遂げるっていうし、生まれてから進化の仕方もすごいですよね
坂本 ほとんどの理論はただの説明の体系であってさ。進化の理論があったとして、
百パーセント正しく説明したとしても、実際その理論が生物を生むかっていったら、生めない。あとから説明しているだけなんだよ。
尾崎 ないものに対してこうなるんではないかという予知をしたアインシュタインとかマルクスについてはどう思いますか?
坂本 同じだね実際にそういうことが起こったときに、その説明がかなりの部分をカバーしてきたんで正しいと思うわけ。
いつもあとから追っかけてくるんだよ。説明があってもなくても、コトは起こる。コップが倒れてビールがこぼれるっていうのは、
その確率がわずかであってもそのことは起こる。そういうふうにコトは起こっていくんじゃない?
ものを作るっていうのもそういうことだし、いくら完璧な評論家がいたとしても、彼には作れないでしょ。
尾崎 そうですね。
坂本 で、まったく説明できない人でも、作れる人は作る。それが大きな違いだよね。
人間としてどっちが偉いっていうんじゃなくて。だから、普通の世界もそういうふうに動いているような気がするの。